こんにちは。合同会社ピットインプロジェクト代表の宮下和也です。
相談も決裁も、最終的には社長のところへ集まってくる。任せられる人材を社内で育てようとしたが、なかなか形にならない。そうした状態から、外部の経営人材を検討し始める方もいるのではないでしょうか。
ところが、実際に迎えた会社の社長からは「思ったほど手が離れなかった」という声も届きます。上がってくるのは報告書ばかりで、判断はやはり自分へ戻ってくる。
妙な話に聞こえますが、構造から見れば当然の結果です。
本記事では、COO代行がどういう選択肢なのかを整理したうえで、外から人を迎える前に社内で確定させておくべきこと、つまり渡す判断の中身と権限の範囲について書いていきます。
【↓↓忙しい方のための目次です↓↓】
COO代行とは、判断を必要な分だけ外から迎える形
COO代行、社外COO、シェアCOO、フラクショナル経営陣。名称はいくつも流通していますが、指している中身はほぼ重なります。常勤の役員を抱えることなく、経営上の意思決定を担う人材を、必要な量だけ外部から確保する形です。
先行したのは米国市場で、日本でも同種のサービスが目立つようになりました。呼び名がなかなか定まらないことには、実は理由があります。
経営幹部人材の市場の動きについては過去の記事に詳しく書いているので、よければこちらもご覧ください。

相談の中身は、作業ではなく判断に集まる
COO代行を検討している社長に、期待している役割をうかがっていくと、行き着く先はおおむね二つです。
ひとつは、あらゆる相談と決定が自分ひとりに集中している状態を解消したいということ。
もうひとつは、事業を伸ばして会社を前へ動かす存在が欲しいということです。
どちらも作業に関する話ではありません。判断に関する話です。
この規模の会社は、作業についてはすでに手放せていることが多くあります。
下流の実務は担当者が回している。手放せていないのは判断のほうです。意思決定、工数の管理、品質の管理。気づけばすべてが社長のもとへ戻っています。
ここまでは、ほとんどの経営者が同じ状況を語られます。
一致するのは、そこまで
では、具体的にどの判断を委ねるのか。
この問いで会話が止まることが非常に多くあります。可能なら全部、いろいろある、現場で決められることは現場で。そうした答えになります。
これは望ましくない状態ではありません。渡す中身を言語化する必要がこれまで生じなかっただけです。
同じ現象は国内の中小企業に限られません。
ハーバード・ビジネス・レビューには、COOという役職そのものを対象とした研究があります。
2006年に発表されたもので、COO経験者とCEOへの多数のインタビューをもとに、著者らは次のように結論づけています。役職に対する認識が人によって割れるのは、そもそもその職を設けた動機が異なるからだ、という指摘です。
そのうえで、企業がCOOを置く理由は7つに整理されています。

CEOの戦略を実行に移すため
再建などの特定施策を率いるため
経験の浅いCEOを支えるため
CEOの強みを補い弱みを埋めるため
CEOと組む相手を用意するため
後継候補を試すため
有能な幹部の流出を防ぐため。
7つはいずれも、託される判断の中身が異なります。
戦略の実行を担う人と、後継候補として評価される人とでは、渡すべき決定権の範囲がまるで違ってきます。
これは常勤の役員に限った話ではありません。外部から迎える場合も、どの動機で置くのかによって渡すものが変わります。
著者らは、COOがもっと普及していないのは意外であり、役割をめぐる混乱がなければより一般化していたはずだ、とも述べています。要するに、この職が少ないのは人材が不足しているからではなく、役割が定義されていないからではないか、という見立てです。
決まっていないものは、渡せない
どこまでの支出をその人の裁量で決めてよいのか。採用の可否は誰が決めるのか。取引先との条件変更はどの範囲まで委ねるのか。人事の言葉でいえば権限範囲にあたる部分です。
ここが未確定のまま人を迎えると、迎えられた側はひとつずつ社長へ確認するほかなくなります。
外部の経営人材が機能しなかった事例を扱った海外の論考には、週に十五の判断を求められる立場でありながら、明示的に与えられた権限は三つ分にとどまる、という指摘があります。その状態で出てくるのは成果ではなく報告書です。
社長に集まっていた判断が、いったんその人のもとへ集まる。しかし決める権限がないため、結局は社長へ返ってくる。滞留する場所がひとつ増えただけ、という結末になりかねません。
同じ論考には、権限は着手より前に渡すものであり、後から交渉する性質のものではない、という一節もあります。
これは経営者の姿勢を問う話ではありません。渡す中身が定まっていないから渡せない。順番の問題です。
当社には年間100社を超える相談が寄せられますが、どの判断をどこまで委ねるかを書面にできている会社は、ほとんどありません。書く必要がなかったからです。
社長がその場で決めれば会社は回ってきました。ただ、その状態のまま外部人材を迎えれば、渡すものがないまま迎えることになります。
支援先の社長からは、契約前の状況としてこうした声も届いています。
助言を受けても自分は動けなかった。事務代行に何を依頼すれば自分が楽になるのか分からなかった。
外に出す先がなかったのではなく、出せる形に切り出せていなかったということです。
借りる前に、決まっていること
順番を戻します。
意思決定を分散させたいという要望自体は、まったく正しいものです。ただし分散させるには、対象がリストになっている必要があります。
そのリストは、人を探しながらでは作れません。
先に、自社のどこが空白かを確認することになります。空いている場所が見えれば、渡すものが決まる。
渡すものが決まれば誰に渡すかも決まってきます。

外から借りるのか、社内で育てるのか、当面は社長が持ち続けるのか。
判断できるようになるのは、その段階からです。
まとめ
外部から経営人材を迎えること自体に問題はありません。
今後さらに一般化していくと考えています。ただし、誰を迎えるかを考える前に、何を渡すのかが決まっていなければ、その人は報告書を書く役目に収まってしまいます。
COO代行が負担を減らすかどうかは、迎える相手の力量よりも、迎える前の準備で決まる部分が大きいということです。
ひとつ確認してみてください。
いま社長が下している判断のうち、自分でなくても構わないと言えるものはどれでしょうか。二つ三つすぐに浮かんだ方は、渡す準備が整っています。浮かばなかった方もそれが通常です。
ほとんどの経営者は、そこを言葉にする機会がないまま日々の判断を続けています。
どれなら渡せるかという問いは、会社全体を眺めていても答えが出ません。領域ごとに分けて見ていくと輪郭が現れます。財務・経理、労務、人事、総務、法務、運営管理、マーケティング・営業、そして経営。この単位で棚卸しすることから始まります。
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COO代行に関するよくある質問
Q. COO代行とシェアCOOに違いはありますか。
A. 名称が異なるだけで、対象はほぼ同一です。社外COO、フラクショナル経営陣という言い方もありますが、常勤役員を置かずに経営判断を担う人材を必要な分だけ迎えるという点は共通しています。名称で選ぶ意味は薄く、その人に何を決めてもらうのかが自社で定まっているかどうかが分かれ目になります。
Q. どの程度の規模から検討する話でしょうか。
A. 年商数億円、社員20〜30名前後から相談が増えます。ただし人数が理由ではありません。経営者ひとりが一日に処理できる判断の量を、会社が動く量が上回ったときに生じる相談ですので、少人数でも事業が複数あれば同じ状態になります。
Q. COO代行を入れても機能しないのは、どのような場合ですか。
A. 権限が渡されていない場合です。海外の論考では、週に十五の判断を求められる立場に対し、明示的な権限は三つ分しか与えられていないという指摘があります。自分で決められなければ経営者への確認が必要になり、判断の詰まる場所がひとつ増えるだけになります。
Q. 社内で育てるのと外から迎えるのでは、どちらがよいですか。
A. どちらが正解ということはありませんが、踏むべき順序は同じです。先に自社の空白を確認すれば、渡すものが定まります。ナンバー2が育たないという状況も、素質ではなく渡すものを切り出せていないことが原因である場合が少なくありません。
Q. 顧問やコンサルティング、事務代行とは何が違いますか。
A. 関与する層が異なります。コンサルティングは助言を行う立場、事務代行は業務を引き受ける立場で、いずれも必要な場面があります。ただしCOO代行に期待されているのは、助言でも業務でもなく判断そのものです。
出典・参考
・Nathan Bennett & Stephen A. Miles「Second in Command: The Misunderstood Role of the Chief Operating Officer」Harvard Business Review(2006)

