こんにちは。合同会社ピットインプロジェクト代表の宮下和也です。
社員に仕事を任せているはずなのに、確認だけは社長に集まってくる。
見積金額を確定するとき、顧客から例外対応を求められたとき、新しい採用を進めるとき。担当者はいるものの、最後は「社長に確認します」で止まってしまう。
この状態が続くと、社員数が増えても社長の仕事は減りません。
むしろ現場から上がってくる相談や承認が増え、以前より細かな判断に時間を取られることもあります。
こうした会社で見直したいのは、単純な業務分担だけではありません。
「誰が作業するか」と「誰が決めるか」を分けて整理する必要があります。
本記事では、社長に集中している判断の見つけ方、任せる判断の見極め方、そして権限移譲する前に決めておくことについて解説します。
【↓↓忙しい方のための目次です↓↓】
担当者を決めても、社長確認がなくならない理由
業務分担表や組織図では、多くの場合「誰が担当するか」を決めます。
営業は営業担当者、採用は人事担当者、請求は経理担当者という具合です。
ところが、実際の業務には作業だけでなく、その途中に複数の判断が含まれています。
たとえば「見積書を作成する」という業務でも、金額を入力して書類を作る作業と「この顧客にいくらで提示するか」という判断は別です。
採用でも、求人票の作成や応募者との日程調整を任せることと、採用条件や最終的な採否を決めることは異なります。
担当業務だけを移しても、判断する人が決まっていなければその都度社長に確認が戻ってきます。
そのため権限移譲を考える際は、業務一覧だけではなく業務の途中で発生している判断まで確認することが重要です。
組織図や役割を整えても社長の仕事が減らない場合は、「誰が担当するか」だけでなく「誰が決めるか」まで整理できているかを確認してみてください。
社長が持っている判断は、日常業務から見つける
では、社長が現在どの判断を持っているのか。
ここで難しいのは、本人にとって日常的な判断ほど自分では業務として認識しにくいことです。
そこで、業務一覧を眺めて考えるより、実際に発生した「確認」と「指示」を記録する方が見つけやすくなります。
たとえば1週間、社長に届いた相談や確認と社長から出した指示を記録します。
「この値引きは認めてよいか」
「この経費を使ってよいか」
「この問い合わせにはどこまで対応するか」
「この採用候補者を次に進めるか」
こうしたやり取りには、社内で社長が担っている判断が表れています。
記録するときは判断内容だけでなく、誰から来たか・金額はいくらか・どの程度時間がかかったかも残しておくと、その後の整理に使えます。
もう一つ確認したいのが、「社長が1週間連絡を取れなかったら何が止まるか」です。
契約が止まる・採用が止まる・顧客対応が止まる。
止まる業務が見つかったら、その原因を確認します。
決定者がいないのか。判断基準が共有されていないのか。必要な情報を社長しか持っていないのか。
同じ「社長がいないと止まる」でも、原因によって対処は変わります。
すべての判断を社員に渡す必要はない
社長が持っている判断を洗い出しても、すべてを移す必要はありません。
会社の方向性・重要な投資・経営幹部の採用など、経営者が引き続き持つべき判断もあります。
一方で、毎月繰り返し発生し判断基準を定めやすく、間違えても修正できるものは権限移譲を検討しやすい領域です。
たとえば一定金額以下の経費承認・決められた範囲内での値引き・通常ケースの顧客対応などが該当します。
反対に一度決めると取り返しがつきにくいものや、会社全体への影響が大きいものは、慎重に扱う必要があります。
判断を整理するときは、「重要かどうか」だけではなく、少なくとも次の観点を確認します。
- 発生頻度は高いか
- 判断基準を言葉にできるか
- 失敗した場合にやり直せるか
- 金額や顧客への影響はどの程度か
- 会社の方針や経営判断に直結するか
最初から大きな権限を渡すのではなく、条件を設定しやすく、修正可能な判断から移していく方が運用しやすくなります。
権限移譲は「社長が決めるか、社員が決めるか」の二択ではありません。
金額や条件によって決定者を変える設計も可能です。
「誰が決めるか」は一つの判断につき一人にする
判断を移すときに曖昧にしてはいけないのが、最終的な決定者です。
「営業チームで判断する」「管理部で相談して決める」とすると、意見が割れたときに再び社長へ確認が戻ります。
意思決定の役割を整理するフレームワークとして知られるRAPIDでも、最終的に決定する役割は「D(Decide)」として明確に区別されています。
Harvard Business Reviewに掲載されたRogersとBlenkoの論考でも、意思決定を滞らせる要因として、誰が決めるのかという役割の曖昧さが扱われています。
したがって、権限移譲では「営業部」のような部署名だけでなく、最終的に誰が決めるのかまで決めておく必要があります。
ここで、以前のコラムで扱った「ナンバー2を置けば解決するわけではない」という話ともつながります。
役職を置くことと、その人が何を決められるのかを定めることは別です。ナンバー2やCOOにどこまで経営判断を任せるかを考えている場合は、こちらもあわせてご覧ください。

任せる前に「目的・制約・報告方法」を決める
決定者を変えるだけでは、権限移譲は安定しません。
判断を任された側には、「何を基準に決めればよいか」が必要だからです。
最低限決めておきたいのは、目的・制約・報告方法の三つです。
たとえば「顧客への値引き判断」を営業責任者へ移すとします。
この場合、「顧客との継続取引を守りながら粗利を確保する」という目的を共有し、「値引き率○%以内」「年間契約の場合のみ」といった制約を設定します。
さらに「条件内なら事後報告」「条件を超える場合は事前相談」のように、報告方法も決めます。
ここまで決まっていれば、担当者は毎回社長に答えを聞かなくても、自分で判断できるようになります。
逆に「今後は任せるからよろしく」とだけ伝えた場合、任された側はどこまで自分で決めてよいのか分かりません。
結果として、慎重な人ほど社長に確認します。
任せても確認が減らない場合は、社員の能力だけではなく、判断条件が十分に渡されているかを確認する必要があります。
権限移譲した後に確認するのは「結果」だけではない
権限を渡した直後から、社長と同じ判断ができるとは限りません。
重要なのは、判断結果だけを評価するのではなく、「何を基準にその結論を出したのか」を確認することです。
たとえば月に一度、実際に行われた判断を数件取り上げます。
判断理由を確認し、会社の考え方とずれていた場合は、本人を責めるのではなく、共有している基準や条件に不足がなかったかを見直します。
反対に一定期間問題なく判断できているのであれば、事前承認を事後報告へ変えるなど、任せる範囲を広げることもできます。
権限移譲は、一度決めて完了するものではありません。
実際の判断を通じて基準を調整しながら、「社長に確認しなくても決められる領域」を増やしていく運用が必要です。
外部の管理部長やCOOなど、社内外の人材に判断を任せる場合も考え方は同じです。役職名ではなく、「どの判断について、どこまで決められるのか」を契約や役割設計の段階で確認します。

まとめ|社長の仕事を減らすなら、業務ではなく「誰が決めているか」まで見る
社長に確認が集中している会社では、単純に人を増やしたり、業務を振り分けたりするだけでは解決しないことがあります。
確認したいのは、日常業務の中で「誰が決めているか」です。
まず、社長に届く確認や相談、社長から出している指示を記録し、現在持っている判断を把握します。
その中から、繰り返し発生するもの・基準を決めやすいもの・失敗しても修正できるものを中心に、別の決定者を設定します。
そして、決定者を決めるだけでなく、目的・制約・報告方法まで共有する。
運用開始後は、実際の判断を見ながら基準を調整します。
この状態をつくることで、「仕事は任せているのに、判断だけ社長に戻ってくる」という状況を減らしていけます。
社長が現場から離れるために必要なのは、単に仕事を手放すことではありません。
自社のどの判断を社長が持ち続け、どの判断を誰に任せるのか。
その境界を会社として決めることが、権限移譲の土台になります。
社長に確認しなければ進まない仕事が、社内にどれくらい残っているでしょうか。現在地の確認から始められる無料相談も実施しています。
「仕事は任せているはずなのに、自分の判断業務が減っていない」。そう感じている方は、ぜひお気軽にお申し込みください。
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出典・参考
Paul Rogers, Marcia W. Blenko, “Who Has the D?: How Clear Decision Roles Enhance Organizational Performance,” Harvard Business Review, January 2006.
判断・権限移譲に関するよくある質問
Q. 権限移譲は、社員が何人くらいになったら始めるべきですか?
人数だけで判断する必要はありません。社長への確認が日常的に発生している、社長不在で業務が止まる、担当者を置いても社長の業務量が減らない、といった状態が出ていれば整理を検討するタイミングです。
Q. どの判断から社員に任せればよいですか?
繰り返し発生し、判断基準を言葉にしやすく、誤った場合でも修正できるものから検討しやすくなります。一定額以下の経費承認や、条件を定められる顧客対応などが代表例です。
Q. 任せた社員の判断が社長の考えと違った場合はどうしますか?
結果だけで評価せず、どの基準で判断したかを確認します。認識にずれがあれば、目的や制約など、事前に共有している判断基準を修正します。
Q. 部長やナンバー2を置けば、社長への判断集中は解消できますか?
役職を置くだけでは解消しません。その人が何について最終決定できるのか、どの条件なら事前確認が必要なのかまで定める必要があります。
Q. 外部のCOOや管理部長にも判断を任せられますか?
可能ですが、実務だけを委託するのか、一定の判断まで任せるのかを明確にする必要があります。対象となる判断、決定できる条件、報告方法を契約・役割設計の段階で整理しておくことが重要です。

