こんにちは。合同会社ピットインプロジェクト代表の宮下和也です。
経営者の方から、腰を据えて考える時間がなかなか取れない、というお話をうかがうことがあります。日々の対応に追われているうちに、一日が終わってしまうという感覚です。
ただ、これは意志や時間の使い方の問題ではありません。日常の中で深く考えられないのは、そもそも時間の構造がそれを許していないからです。
つまり経営者に足りないのは考える時間そのものではなく、考えられる状態を強制的につくる仕組みです。
今日は、なぜ日常の中では未来の判断ができないのか、そしてその時間をどうやって確保すればいいのかを書いていきます。
【↓↓忙しい方のための目次です↓↓】
なぜ日常の中では未来の判断ができないのか
経営者が実際に一日をどう使っているかを分単位で追った、ミンツバーグの古典的な調査があります。
そこに記録されていたのは、じっくり構想を組み立てる司令塔とは、かなり違う働き方でした。
着信や決裁・持ち込まれる相談や突発的な対応に数分単位で寸断されながら、目の前の案件を処理し続ける働き方だったのです。
ひとつのテーマを続けて考えられる時間は、ほぼ確認できなかったと記録されています。半世紀前の調査ですから、チャットや通知が加わった現在は、条件としてさらに厳しくなっているはずです。
先ほど触れたとおり、これは本人の姿勢の問題ではなく、置かれている環境がそうさせているということです。
やっかいなのは、この状態でも会社が動いてしまう点にあります。部下からの相談・取引先への対応・支払いの調整・現場で起きるトラブル。いずれもその日を成立させるために欠かせない判断です。
一方で、会社の行き先を決める判断は別の層に置かれています。どの事業に力を入れるのか、何をやめるのか、誰に任せるのか、組織の形をどう変えていくのか。
この二つは、放置したときの挙動が正反対です。
前者は誰かが持ち込んでくれますが、後者は自分から時間を取りにいかない限り、着手される日が来ません。

環境を変えないと、思考が変わらないのはなぜか
未来の判断が滞る背景にあるのは、時間の不足だけではありません。人は自覚している以上に、繰り返しへ強く縛られています。
行動のうち4割前後は、その都度考えて選ばれたものではなく、繰り返しによって自動化されたものだという調査結果がデューク大学から出ています。
座る場所も、開く会議も、判断に使う物差しも、たいていは前回と同じものが選ばれます。経営者だけが例外ということはありません。
つまり同じ場所に身を置いている限り、思考の道筋は昨日となぞる形になるということです。
だからこそ、このままではまずいと感じている事柄ほど手つかずで残ります。異変の兆しを問題のない範囲だと読み替えてしまう正常性バイアスも、着手を遅らせる方向に働きます。
私の仕事は、成長期にある会社の管理体制や組織を、分野をまたいで構築することです。伴走に入らせていただいた会社でも、数年前から経営者本人が気づきながら放置されていた課題に行き当たるのが通例です。
では、この道筋からどうやって抜け出すのか。方法はふたつしかありません。
身を置く環境を入れ替えるか、社外の人間を入れるかです。
「緊急ではないが重要」な時間は、どうつくるのか
まず、環境を入れ替えるほうから見ていきます。
『7つの習慣』の著者スティーブン・コヴィーは、あらゆる仕事を急ぎかどうかと重要かどうかの二軸で四つに分けました。会社の先を考える仕事が入るのは、急ぎには見えないが重要度は高い、第2領域と呼ばれる区分です。
この区分の仕事に共通するのは、誰からも期日を指定されないという点です。そして期日のない仕事は、期日のある仕事に場所を明け渡すしかありません。
というのも、手が空いたら考えようという発想は、順番の性質上いつまでも実現しないからです。ですので先に押さえておくべきなのは時間そのものではなく、考えるしかない状況のほうだと言えます。

参考になる例として、マイクロソフトを率いていた頃のビル・ゲイツが、年に二度確保していたシンク・ウィークがあります。
面会の予定をすべて外したうえで山荘にこもり、資料を読むことと構想を練ることだけに一週間を充てていたそうです。同社が事業の方向を大きく切り替えた判断も、この期間から出てきたものだと伝えられています。
つまり多忙さでは世界でも有数の経営者が、走り続ける日常を強制的に中断する装置をあらかじめ持っていたということです。
ここに学ぶべき点があると考えています。
もちろん、山にこもらなければならないわけではありません。職場ではない場所へ移動し、画面を閉じて紙やホワイトボードに向かうだけでも、頭の使い方は目先の処理から会社の行き先の検討へと移ります。

外から人が入ると、止まっていた問題が動き出す
もうひとつの方法が、社外の人間を入れることです。
興味深いのは、先ほど触れたような放置されてきた課題の大半が、社外の人間が関わり始めた時点で動き出すことです。
これは外部の人間が優れているという話ではありません。
社外から加わった人間の頭に、その組織で共有されてきた考え方の型が入っていないというだけのことです。
たとえば定例の場に社内からは出てこない問いが持ち込まれ、順番待ちだった案件に日付が入り、様子を見ようという判断が今週やろうに変わっていきます。数年単位で動かなかった課題が数か月で処理されていく場面は、これまで何度も立ち会ってきました。
ですので私は、社外の人間に入ってもらう意味は専門的な知見を得ること以上に、社内に固まった進め方へ外から手を入れられる点にあると考えています。
知識の対価と捉えるより、動かない状態を動かすための手段と考えるほうが、費用に見合う成果が出ます。
さらに踏み込むと、外から入った人間が動かしているのは、議論の前提そのものです。
社内だけで話し合うと、論点はどうしても今月の着地に寄っていきます。参加者の間で前提が揃いすぎているためです。ここに立場の違う人間が加わると、その前提自体を検討の対象にできます。
前提を疑うところから始めるこの状態は、経営学ではダブルループ学習と呼ばれています。
打ち合わせの場で私が時間を割いているのも、目の前の課題を整理することだけではありません。いま何に頭を使うべきかという論点そのものを、経営者と一緒に置き直す作業に時間を使っています。
実際、いただくご相談の入口は管理面の実務であることが大半ですが、回を重ねるうちに、話題は事業の方向性や中期の戦略へ移っていきます。管理の領域だけ手を入れても、会社そのものは動かないからです。
経営の「ピットイン」とは何か
レースを走る車は、勝つためにピットへ立ち寄ります。停止すること自体に意味があるのではなく、どのタイミングで入り、何に手を入れるかが順位を左右するわけです。
経営にも、これと同じ性質があると考えています。
日々の業務からいったん身を引き、会社の状態を確かめ、次に取る手を決めてから戻る。この時間を私は経営のピットインと呼んでいて、社名もこの発想から名づけました。
ご支援先の経営者には、四半期に一度は職場を離れた場所で、経営そのものを話題にする時間を取ってはどうかとお伝えしています。
その場で決めるのは、新しく着手することよりも、やめることです。
会社全体を見渡したうえで次の一手を選ぶ。この段取りがあるかどうかで、以降の三か月に下す判断の精度が変わってきます。
さいごに
会社の行き先を決めるのは、経営者にしかできない仕事です。だとすれば、そのための環境を先に予定へ入れておくことは、余裕のある人の贅沢ではなく職務の一部だと言えます。
最近は目先の処理ばかりになっている。そう感じているのであれば、半日からで構いません。
職場から離れた場所へ移り、会社の行き先だけに向き合う時間を確保してみてください。
無料オンライン相談
会社全体を横断して整理しながら、いまどこから手をつけるべきかを一緒に可視化する時間をつくっています。
考える時間を確保したいがきっかけがない、という段階でも構いませんので、お気軽にお申し込みください。
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よくあるご質問
Q. 忙しくて考える時間が取れません。何から始めればよいですか?
A. 手が空いたら考えるという順番では、期日のある仕事に必ず場所を奪われます。まずは半日でよいので、職場を離れた場所で会社の行き先だけを扱う時間を、予定として先に押さえてください。場所を移すこと自体に、目先の処理から頭を切り替える働きがあります。
Q. 社内で経営会議をしていますが、それでは不十分でしょうか?
A. 不十分というわけではありませんが、社内だけの話し合いは今月の着地に論点が寄りやすい性質があります。参加者の間で前提が揃っているためです。前提そのものを検討したい場面では、立場の違う人間を加えるほうが議論が動きます。
Q. 経営について相談する相手とは、どのくらいの頻度で会うのがよいですか?
A. ご支援先には四半期に一度を目安にお伝えしています。日々の課題ではなく、やめることや次の一手を決めるための場として設けると、その後の判断の精度が変わってきます。
Q. 社外のアドバイザーを入れる価値は、どこにありますか?
A. 専門的な知見そのもの以上に、社内で固まった進め方へ外から手を入れられる点にあると考えています。外から入った人間にはその会社の考え方の型がないため、順番待ちだった案件に日付が入り、動かなかった課題が処理されはじめます。

