こんにちは。合同会社ピットインプロジェクト代表の宮下和也です。
人事はどのくらいの規模から社内に置くべきか、というご質問を成長中の経営者からよくいただきます。
その際、私は人事という言葉でどこまでの範囲を想定されているかを先にうかがうようにしています。返ってくるのは採用と人の管理、という趣旨の答えが大半です。誤りではありませんが、それは入口にあたる部分にすぎません。
というのも、いつ社内に置くべきかという問いの答えは、人事をどこまでの機能として見ているかによって変わってくるからです。
今日は人事という領域の中身を整理したうえで、従業員が何名になったら専任を置くべきかを、3つの判断軸から具体的な数字で示していきます。
【↓↓忙しい方のための目次です↓↓】
人事は、採用だけを担う部署ではない
はじめに定義から入ります。
人事とは、人に関する詰まりを取り除きながら会社の成長を支える機関だと私は捉えています。会社が進もうとしている先と、働く一人ひとりが向いている先。この二つのずれを放置せず、合わせ続ける役割だと言い換えてもよいと思います。
担当する範囲は採用にとどまりません。労務、教育、評価や報酬を含む制度の設計と運用、それに組織開発。採用を加えれば、機能の数は5つ以上にのぼります。
たとえば教育の型が用意されていなければ、時間が経っても戦力にはなりません。評価と報酬の仕組みが整っていなければ、努力の向け先が本人に伝わらないままになります。労務が整っていない会社では働き方の前提そのものが揺らぎますし、部署をまたいだ連携も、意図してつくらなければ自然には生まれません。

そしてこの5つは、それぞれ切り離して動かせるものではありません。
評価と教育は、片方だけでは成立しません。評価で本人に現在地を伝え、教育でそこから先を支える。二つで一組の関係にあります。採用も同じで、誰を迎え入れるかという判断は、その会社が何を大切にしているかから逆算されます。
どこかに手を入れれば、必ず別の機能へ波及します。裏を返せば、欠けた機能がひとつでもあると、成長はいずれその場所で頭打ちになります。
ここまでの範囲を社内で一人が受け持っている会社は、実際にはほとんど見かけません。
理由は、成長段階にある会社で管理機能が立ち上がっていく順番にあります。
最初に形になるのは経理です。取引が動きはじめれば、資金の出入りを追わざるを得なくなるためです。
厳密に言えば、この時点ですでに人事の一部は動いています。給与計算がそれにあたります。ただし経理の作業や社労士への委託のなかに紛れているため、それを人事として認識する人はいません。
その次に総務が立ち上がり、人事として意識される業務が始まるのはさらにあとになります。多くは労務と採用からで、担当は誰かの兼務という形をとります。その時点では、人事のためだけに一人分の人件費を確保できないからです。
これは経営者が手を抜いた結果ではありません。資金の管理から先に整えるのは順序として正しく、人事が後ろに回るのは意識ではなく構造上そうなるということです。
組織の課題は、規模の順に発生する
この順番については、半世紀前に説明を試みた研究が経営学に残っています。グレイナーによる企業成長モデルです。

企業の成長は一直線ではなく、伸びる時期と行き詰まる時期が交互に訪れる。グレイナーはそう整理しました。
創業からしばらくは経営者個人の熱量と力量で伸びますが、人数が一定を超えると個人の裁量では処理しきれなくなります。リーダーシップの危機と呼ばれる局面です。
仕組みを入れて運営を始めると、今度は現場の裁量が奪われて息苦しくなる自律の危機が待っています。どの行き詰まりがいつ訪れるかは、人数の増え方に沿って決まっているという指摘です。
ですので10名規模の会社で人事が兼務のまま回っていたとしても、その判断自体は誤りではありません。その人数であれば、経営者の視界に全員が入るからです。
厄介なのは、人数が変わった瞬間に、昨日まで機能していたやり方が今日の行き詰まりに変わる点にあります。
採用しても育たない。評価の物差しが不明確で、何を頑張れば報われるのかが伝わらない。制度のないまま人数だけが増えて、現場の空気が悪くなる。こうした症状がまとめて表に出てきます。
私の感覚では、年商5億円を超えて社員が二桁に乗ったころから、人事が不在であること自体が成長のブレーキに変わります。
実際の現場でどう見えるのかを、ひとつ挙げてみます。
人事制度の構築をご依頼くださった会社での話です。実際に支援へ入ってみると、制度を語る以前の段階で止まっていました。
労務が長く放置されており、年間休日が80日台にとどまっていました。
依頼の内容は制度でしたが、実際に欠けていたのはその手前にある労務という機能でした。このときは半年をかけて、年間休日を適正な水準へ引き上げる作業から始めています。
制度や教育のように成果が見えやすい領域は、給与計算と労務が安定して初めて成り立ちます。足元が揺れている状態では、その上に何を積んでも崩れます。
依頼された機能に手を入れようとすると、隣の機能が動いていない。これは特定の会社に限った話ではありません。
専任を置くのは、何名からが妥当か
ここから本題です。私は三つの角度から判断しています。
判断軸① 法律から見る
労働に関する法律は、従業員数に応じて会社の義務を段階的に増やしていく仕組みになっています。
10人を超えれば就業規則の作成と届出が求められ、常時50人以上の規模になると、衛生管理者と産業医の選任、さらにストレスチェックの実施が同時に発生します。
言い換えれば、50人という人数を、専門知識のない兼務では管理が難しい規模として法律の側が扱っているということです。実務の感覚としても、労務まわりで問題が表面化しはじめるのは30人を超えたあたりです。
判断軸② 担当者の人数比から見る
この領域には、社員100人につき人事1人という経験則が古くからあります。
調査を見ても、人事にあたる人員は正社員全体の2%前後です。規模の大きい会社ほど効率が働き、1%を下回っていきます。裏返せば、規模が小さい会社ほど一人が抱える領域は広くなります。
ここから逆算すると、専任の1人目を置く妥当な人数は30名から50名の間に収まります。20名で専任を置けば人件費の比率が重くなり、100名に対して1人では手が回りません。
判断軸③ コストから見る
労務から教育、評価制度、採用、組織開発まで一人で担える人材となると、募集の相場は年収800万円台からです。人事部長という肩書きで探せば、1,000万円を超える求人も見かけます。
会社側の負担は社会保険料を加えると、その1.2倍から1.3倍まで膨らみます。成長の途中にある会社にとって、この一人分の固定費は軽い判断ではありません。ただし金額を下げて採用すれば、今度は必要な範囲に手が届かない人材になります。
この三つを重ねると、規模ごとの目安は次のようになります。

従業員20名まで:専任を置かない判断が合理的
ただし機能そのものは必要になります。その持ち方については次の項で触れます。
30名前後:最初の一人を検討しはじめる水準
この人数になると、これまで経営者の判断で決めてきた給与や処遇について、根拠の説明を求められる場面が増えます。等級や評価を整える作業が、実務として立ち上がる段階です。迎えるのは実務を担う層で十分で、年収400万円から500万円あたりが目安になります。
50名:置かざるを得ない水準
法律の側からも、この規模になれば専任級の管理体制を求められます。
100名:部としての体制へ
一人では処理しきれなくなり、機能ごとに担当を分ける段階へ入ります。
採用に踏み切る時期と、機能が要る時期はずれている
ここで区別しておきたいことがあります。
先ほどの目安が示しているのはあくまで採用に踏み切る時期であり、それ以前は機能が不要という意味ではありません。
先の会社にしても、労務の機能が要らなかったわけではありません。必要であるのに担い手がいなかっただけです。
10名の会社にも機能は要る。それでも雇用に踏み切るには早い。この差をどう処理するかが、実際の論点になります。
参考になるのが、ノーベル経済学賞を受けたロナルド・コースによる取引コスト理論です。
組織の境界がどこに引かれるかは、その機能を外部から調達するのと内部に抱えるのとで、どちらの負担が小さいかによって決まるという考え方になります。
人数が少ないうちは調達したほうが軽く、増えていけば内部に持つほうが軽くなる。境界の位置は、規模に応じて移動していきます。
人事は、この考え方がほぼそのまま当てはまる領域だと言えます。
20名までは範囲の広い人材を外から確保し、機能だけを先に持つ。30名から50名にかけて、社内へ実務担当を配置しはじめる。この段階になると、外部に求められる役割は作業の肩代わりから担当者の育成へ移ります。
弊社が提供しているのも、この形です。
実務を動かす担当者は社内に置いていただき、私たちが外から入って日々の業務を回しつつ、その方を育てていきます。高い年収の人事部長を一人迎える代わりに、社内の実務層と外部を組み合わせて、機能だけを先に確保する考え方です。

補足すると、外部を使う意味を費用の削減だと捉えてしまうと、判断を誤ります。
たとえば給与の支払いが一度でも滞れば、会社の運営はその時点で止まります。兼務している担当者が一人抜けただけで崩れない状態を維持すること。止まらずに回り続けることのほうが、外に機能を置く理由としては本質的です。
この形の最も大きな価値は、支援を終える時点で社内に人事の担い手が残ることです。外部をうまく使う会社ほど、作業の委託先としてではなく、自社に人事を育てる装置として扱っています。
動きの早い経営者に共通していること
嫌な予感がする、という言い方でご連絡をくださる経営者がいます。まだ実害は出ていないものの、このまま進めば危ないと感覚でつかんでいる状態です。
先に触れたとおり、行き詰まりは人数の順に訪れます。ですので、この予感は多くの場合当たっています。そしてこの時点で手を打てる会社が、結果として最も強くなります。
人事は、採用さえ回っていれば足りるという領域ではありません。人に関する詰まりを解消しながら、会社を前に進めるための機関です。
それをいつ、どの形で持つのか。人数が30名に届く前でも、機能の側から先に確保する道があることを、頭に置いておいてください。
無料オンライン相談
人事の5つの機能のうち、自社ではどこが動いていてどこが空白なのか。現在地を一緒に確認するところから始められる無料相談を実施しています。
人事は必要だが一人を雇うには重い、という段階でも構いませんので、お気軽にお申し込みください。
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よくあるご質問
Q. 専任の人事は、従業員が何名になったら必要ですか?
A. 最初の一人を検討しはじめるのが30名前後、置かざるを得なくなるのが50名、部としての体制に移るのが100名というのが目安です。衛生管理者や産業医といった法定の義務も、50人の規模から発生します。20名以下の段階では採用はまだ早いものの、機能そのものは必要になりますので、外部を使って先に確保しておく形が現実的です。
Q. 最初に着手すべきことは何ですか?
A. 採用に動く前に、自社で欠けている機能はどれかを洗い出すことをおすすめします。労務、教育、評価制度、採用、組織開発という5つのうち、実際に動いているのは前の2つだけ、という会社が大半です。
Q. 外部を使うと、社内で人事が育たなくなりませんか?
A. 進め方しだいで、結果はむしろ逆になります。実務を丸ごと引き取る形ではなく、社内の担当者と並走しながら育てる進め方であれば、支援を終える時点で担い手が社内に残ります。
Q. 人事部長を採用するのと、外部を使うのではどちらが安いですか?
A. 規模によって答えが変わります。広い範囲を担える人材は募集の相場が年収800万円台からで、会社の負担は社会保険料を加えると1.2倍から1.3倍まで膨らみます。20名前後の規模であれば外部を使うほうが軽く済みますが、50名を超えたあたりから社内に抱えるほうが有利になります。

